鍛冶屋町のレトロ・インテリア

 路面電車の発着駅の一つ「崇福寺電停」にほど近い、鍛冶屋町。電停の名のとおり、近くには唐寺・崇福寺があります。崇福寺のなかにある媽姐堂は、航海安全祈願のために建てられたそうです。現在の鍛冶屋町は内陸のイメージがあるけれど、出島町全域と新地や銅座の一部は埋立地であることや、当時は浜町周辺に背の高い建物がなかったことを思えば、崇福寺からは海がよく見えたのかもしれません。ちなみに鍛冶屋町は、船具の鍛冶職人が現在の万屋町からこの地へ移住してきたことから付いた地名なのだそう。出島が埋め立てられる前の万屋町は、中島川の河口に面していて海に近かったのでしょう。

 そんな鍛冶屋町にある1979年完成のビルの一室をリノベーションしました。元々は歯科医院として使われていて、すでにモダンな大正レトロっぽい雰囲気の内装が施されていました。今回はそれを活かしながらどう改装していくか、というのがテーマとなりました。

 施主やデザイナーがぜひとも残したかった建具や腰壁を流用することと、広いリビングを活かしてパンでもつくれそうな木製の大きなテーブルを新規に造作し、それをキッチンにつなげること。この二点を軸に全体をコーディネイトしました。床は面積が広く、その質感や色味は室内の雰囲気を決定づける重要な箇所。建具や腰壁の重厚感にビニル製のフロアタイルは合わないので、ナラの無垢材を採用。そのままでも十分合うけれど、もっと色の濃さを出すために、オスモカラーという植物由来の自然塗料を使って塗装しました。木の呼吸を妨げず、植物油を浸透させて色を変えられる塗料です。無垢材の保護にも一役買っています。

 古い物件をリノベーションするときには、時代の生活環境の変化による需要の一つとして、コンセントの増設も避けられません。普通なら壁のなかに埋め込むこともできますが、今回のように腰壁をそのまま流用するときにはそうもいかない。今回は、アルミ製のボックス型を外付けしてメタル感を出しました。プラスチック素材よりも、アルミや鉄のほうが無垢材によく合います。

Before

元・歯科医院として、治療室、待合室、バックオフィスの三分割された間取り。

After

元々の壁は再利用して、間取りを大きく変えることなく、住居としての機能を足しました。ポイントは中央に配したキッチンテーブル。テレビのない(生活ノイズのない)静かなリビングルームをつくりたくなる佇まいになりました。

鍛冶屋町のレトロ・マンション

エリア|長崎市鍛冶屋町
設計・施工|ABC不動産
デザイン|辻郷 麻理
施工時の築年数|36年

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